二人の第一印象は、全く正反対だった。
サルメは健康的な笑顔が印象的で、よく喋るやつだった。道中で後方を守るサルメは、周囲に目を光らせながらも我々の会話を絶やさなかった。話題はいつも私のことだった。オウスの好きな遊びは何だとか、どんな女の子が好みだとか。オトタチバナヒメのことはどう思っているのか、なんてことまで聞いてきた。どうせ三人しかしないのだから、と言われ、それもそうだと思い、私も何でもかんでも喋った。
彼女は美しい。天女のようだ。私と話すときの彼女の笑みはまるで生娘のように初々しく、それはかわいらしい。
恥ずかしい台詞でも、どうせ男三人の旅だ。見栄を張る相手などいない。それに、なんでも言い合える関係というものがこんなに居心地のいいものだとは知らなかった。私とサルメの会話はところどころで下品なこともあったが、先陣を切って歩くサダルは振り返りもしなかった。
サダルは必要最低限のことしか喋らず、我々の先導役として前を歩くものだから目が合うこともあまりなかった。食事のときなどもほとんど私とサルメの会話で時間が過ぎていき、私はサダルと関わる機会もあまりなかった。
ただ、毎朝私を起こしに来るのはいつもサダルだった。彼との唯一の密度の濃い関わりの時間のはずだったが、私が眠りから完全に覚醒するのを彼は待たない。私が腰を起こし、目をこすっている間に、お早うございます、昨晩は良く眠れましたか、では失礼いたします、などと一方的に言って、彼は出て行ってしまう。あんな起こし方があるか。いや、起こしてもらっているのだから文句は言えないが……。

サルメとサダルは兄弟だ。彼らは私と出会う前からずっと共にいた。
ある夜、たまたまサルメと二人で酒を飲んでいたとき、私はサルメに彼はいつもあんな感じなのか、と聞いてみた。別に私とサダルが二人きりになることもなかったので、彼が極端に他人行儀だからといって特に支障はなかったのだが、三人でいるのに一人は黙々と前を歩いているとあってはどうにも居心地が悪い。二人よりも三人で話したほうが楽しいに決まっている。


「サダルですか。あいつは昔からそういうやつなんです。というのは、今はあなたを守るという使命に従事してるってことです。馬鹿みたいに真面目で、二つのことを同時にできないんですよ」

「ふーん……。私たちの会話に参加しようと後ろを振り向こうものなら、どこぞより怪物が襲ってきて私がとって食われるとでも思っているのか?」

「はは……。まさかそう思っているわけではないでしょうが……。敢えてそうする必要もないと思っているのでしょう。オウスから話しかけてみてはどうですか」

「無視されそう……」

「貴方にそんな風に思わせるなんて、彼としては心外でしょうね」


私は、彼に嫌われているのではないかと思っていた。サルメの話を聞くところ、どうもそういうわけではないらしい。だとしたら、彼はひどく不器用だ。


それから私はサダルにちょくちょく話しかけるようになった。話しかければ彼は応えた。たまに笑顔も見せた。そこにサルメが加われば、サダルはより笑顔が増えた。おそらく、人見知りなのではないか、と私は思った。だから親しいサルメがいると安心して無防備な笑顔を見せるのだろう。私と二人きりのときには、まだどこかぎこちない表情をしていた。私の望む受け答えをしようと思案して言葉を選んでいるのが目に見えた。私はもっと彼と仲良くなりたかった。








「サダル、お前女装似合うじゃないか」

「オウスこそ、綺麗ですよ」

「綺麗〜?それは褒め言葉か?」

「あ……すみません」

「そんなことくらいで謝るな。お綺麗ですよ、惚れちゃいそうです、くらい言ってみろ」


サダルの当惑した顔が珍しかった。言われたとおりの冗談を言うことが滑稽であるのもわかっているらしく、代わりに謝りそうになったけれど、謝るなといわれたばかりなので言うべき言葉をなくしてしまったようで、彼は頭を垂れた。私はこれ見よがしに遠慮のないため息を吐いた。それに反応してサダルがパッと顔を上げた。


「オウス、すみません。嫌な気分にさせてしまいましたか……」

「あぁ、なったな。大いに嫌な気分だ」


目に見えて落胆した顔をするサダルがおかしかった。それでも気丈な彼は痛みに耐えているかのようにぎゅっと口を閉じていた。
これでは私がいじめているみたいだな。いや、半分、いじめているのも事実だが。
着替え終えたサルメが隣の部屋から出てきた。我々のわざとらしい険悪な雰囲気を見て、笑いをごまかすように咳を二、三度した。
私はますますサダルをからかいたくなって、足元に視線を落とすサダルの腰を右手でグイッと引き、私の元に引き寄せた。突然のことに驚いて目を見開いたサダルの顔がすぐそこにある。空いた手でサダルの頬に触れ呟いた。


「さて、サダルはどうやって私の機嫌を治してくれるのかな」

「オウス……あの」


サダルは耳朶まで赤く染め、それでも瞳は真っ直ぐに私を見つめながらなんとか声を絞り出していた。
彼の瞳は、強い。何があろうと、きっと彼の目はこんな風に強い光をたたえ続けるのだろう。気丈な瞳だ。

この後彼が何を言ってくれるのか密かに期待しながら次の言葉を待ったが、彼はそれきり何も言わなかった。こんなに近くで目を合わせながら、沈黙。おかしな状況だ。



「オウス、それくらいにしてやってください」


あまりにサダルがかわいそうになったのか、サルメが割ってきて、サダルから私を引き剥がした。サダルはホッとしたような、申し訳ないというような、なんともいえない表情をしている。

サルメはきっと私を見据えた。私は彼が怒っているのかと思った。だが、違った。
私と視線を合わせ決意したように頷くサルメを見て、私は我々の状況について再確認した。
思えばこんな茶番を繰り広げている場合ではなかった。これからクマソタケルの兄弟と一戦を交えるというときに、私の神経もどうかしている。


「サダル、冗談だ、冗談。……さて、気合入れなおさなきゃな」


私は懐に隠した短剣を確認し、二人を見渡した。サダルも既に戦士の表情に戻り、緊張した面持ちで私に向かって頷いた。