次の日、1年3組。 帰りのホームルームが終わり、部活に行くもの、帰宅するもの、だべっていくものとで教室内は騒がしい。そんな中、カシウスは挙動不審にあたりを見回していた。ホームルームが少し早く終わりすぎた。時計を気にしてキョロキョロしているカシウスに彼の親友、ブルータスが話し掛けた。 「カーシーウース!!帰ろうぜ♪」 「……あっブルータス…」 「なんだ驚いた顔して?帰ろ?」 「あ…うん……。えっと……」 本当だったらロックウェルがカシウスを迎えに来る予定だった。そしてブルータスに「あれ?なんでカシウスのやつあんなかっこいい先輩と一緒にいるんだ?……なんかムカつくなぁ、あの先輩……え?俺なんでムカついてんだ?これって………もしかして、恋?(ドキーン☆)」と思わせる作戦だった。しかしブルータスの邪気のない笑みに、まぁ今日は失敗ってことで♪などと思いかけてしまう。 「……えと…俺…」 「どしたぁ?」 しどろもどろなカシウスにブルータスが首をかしげる。その時。 「あっあれ、ロックウェル先輩じゃない!?」 「えぇ!?なんでうちのクラスにいるのぉ!?」 教室内に黄色いざわめきが起こった。カシウスがハッと目を向ければドアのところに手をかけ、若干惹き釣り気味の笑顔のロックウェルの姿があった。制服をラフに着こなし、指定外のバッグを肩に抱えているロックウェルは、一年生の中にいるといかにも人気者の上級生らしく、クラスが注目するのもわかる。ブルータスもそのざわめきに、なんだなんだ?とドアのほうに目を向けていた。 近くにいたイサベルにロックウェルは声をかける。イサベルは緊張しているようで、返事の声を裏返らせた。 「カ、カシウス!ロックウェル先輩が、あんたを呼んでるわよ!」 「あ……うん」 カシウスはできるだけ自然を装って返事をした。驚きをそのまま表情に出しているブルータスに向かってカシウスは罪悪感を感じつつ言う。 「……ブルータス、俺、今日はロックウェル先輩とちょっと用事あるから」 「え!?マジかよ!?なんでなんで!?」 「……(え?なんで?なんでだっけ?/汗)えっと、ちょっと、最近仲良くて、えっと……」 「えー!!マージーで!!お前すげぇな!!」 なぜかやたら感動しているブルータスと、困惑気味のカシウスの元にロックウェルが近づいた。 「おっとぉ!!??カシウスとロックウェルさんの間に一体何が!?一体二人はどんな親密な関係なんだぁ〜!?これは気になるッス!!」(←サクラ) 「(無視)カシウス、待たせたか?」 「……あ、いや、ちょうど終わったとこです」 クラスの視線を浴びて恥ずかしいのか、カシウスは目を合わせずに俯いて言った。これではまるでロックウェルが先輩権力フルに使ってカシウスを体育館の裏に呼び出して「一年の癖に調子乗ってんじゃないの?」などと言い出さんばかりである。やきもち作戦のためにはもっとそれらしくしなければ。 「ねぇ、カシウス借りてっていい?」 「え!?あ、はい!!(汗)」 突然自分に話題を振られたブルータスはあわてて適当に返事をした。そんなブルータスに、女の子ならば誰でも恋におちてしまうような最上級の笑みを返し、ロックウェルはカシウスの肩を抱いた。作戦の一貫だというのに不覚にもカシウスの心臓は高鳴った。 「あっ、じゃぁ、俺帰るわ!また明日な!」 空気を読んだらしいブルータスが足早に廊下に出た。指導力のあるものは周囲の状況をすばやく察することができる。やきもちを焼いたかはわからないが、何かしら思うことはあったはずだ。 ロックウェルとカシウスも一瞬視線を合わせ、「成功かな?」と笑みを交わす。そしてブルータスに続き教室を出た。すると…… 「あれ!?カエサル先輩。どうしてここに?」 「ブルータス。遅かったな。こないだ言ってた店に連れてってやろうと思って」 「えぇー!いいんですかぁ!?」 廊下にはブルータスを待っていたらしい、噂のカエサルがいた。それもカエサルに誘われたブルータスはうれしそうに目を輝かせている。何言か言葉を交し合うと、二人は楽しそうに並んで歩いていった。 「「……(汗)」」 残されたカシウスは呆然としていた。ロックウェルは恐る恐るカシウスに目を向ける。宙を見て見開いた目は段々潤んできていた。 「(やばい!/汗)カ、カシウス。まぁ、あれだよ、えーと…ほら、たまたまだよ。そう、つまり、あれだ、気にする必要ないって……あー待て待て待て、泣くな…(汗)」 ロックウェルのかすかな希望もむなしく、カシウスは声に出さず泣き始めた。喉の奥でこらえるように泣く姿はまるで悲劇のヒロインである。これじゃ自分が泣かせたみたいじゃないか…と危惧するロックウェルはなんとか泣き止ませようとするが、上手い言葉が見つからない。廊下にたむろしていた生徒たちの視線が集中する。 「あれ?カシウス泣いてない?」 「……ほら、ロックウェルがきっと何かひどいことを言ったのさ」 「え?そうなの?ロックウェル先輩がそんな人だったなんて……」 「……ちょっとモテるからってマジ調子に乗ってるヨネ(ニヤアリ)」 「……って何で貴様がここにいる!!!(汗)」 何も知らない一年生たちになにやら悪い噂を振りまいていたルドルフはロックウェルの右ストレートをもろにくらって宙を舞った。 「なるほど……。それでカシウスが泣いてたわけッスか」 ロックウェル、聞き耳、カシウスの三人は再びロックウェルの家で作戦会議をしていた。 カシウスはようやく泣き止み、鼻を赤くしながらロックウェルの入れた紅茶をちびちび飲んでいた。 無口な上に泣き虫な、めちゃめちゃ手のかかるカシウスだが、彼には周囲の人間が知らず知らずのうちに世話をしてしまうようなある種の雰囲気があった。もともとロックウェルが面倒見のいい性質なのもあるが。 「でも別に作戦失敗ってわけじゃないし、もしかしたらやきもち妬いてるかも……」 ロックウェルが一応のフォローをするが、カシウスは小さく頷いたのみだった。 「まぁまぁ!カシウス!大丈夫ッス!作戦2があるッスよ!」 聞き耳の言葉にカシウスは顔を輝かせた。単純なやつ……(汗) 「なんだよ作戦2って?」 「恋は駆け引きが大事!押し過ぎてもダメだし引きすぎてもダメ!飴と鞭作戦ッス!!」 うーん、とロックウェルは怪訝な顔をした。カシウスはいまいち飲み込めないようで、聞き耳に聞き返した。 「……飴と鞭って…俺、どうすればいいの…?」 「簡単ッス!普通に話してる中で、すっごい笑顔で優しくしてあげたり、急にそっけない態度をとったりするんスよ!」 「……でもそんなことしたらブルータス混乱しちゃわないかな…」 「それでいいんスよ〜!そうやってブルータスの頭の中がカシウスでいーっぱいになれば成功ッス!」 「……よくわかんない」 駆け引きというのが理解できないカシウスは首をかしげた。 「とにかく!明日やってみるッス!」 「俺は何もしなくていいわけ?」 ロックウェルが口を挟んだ。 「あんたはもういいッス!(キッパリ)」 「あ、そう……(なんかムカつく/汗)」 次の日。 「ふんふんふ〜ん♪」 「何よ聞き耳、キモいよぉ(汗)」 「何か嬉しい事でもあったんでしょうか?」 彼の苦手な数学の時間であると言うのに、上機嫌で鼻歌を歌う聞き耳をイサベルとエレーヌは訝しげな顔で見ていた。勉強がはかどっているのかと思えば彼のノートは相変わらずドラ○もんの落書きがのったくっているのみだった。 「ん?いやいやちょっとねー。エレーヌ、この問題おしえてくれッス♪」 「どれですか?」 「ちょっとちょっと!今私がエレーヌに教えてもらってるの!あんた昨日カシウスに教えてもらってたじゃない。カシウスのとこ行きなさいよ」 エレーヌのノートを覗き込む聞き耳を押しのけ、イサベルが言うと、聞き耳はぶんぶんと両手を振った。 「今日はダメなんスよ!いいから教えるッス!(←何様)」 聞き耳はふと目線をカシウスのほうにやり、満足気に頷いた。 カシウスの前の席にブルータスが後ろ向きに座り、勉強を教えてもらっているところだった。今日はカエサルのところに行っていないらしい。カシウスも嬉しそうだった。 「エフン!エフン!!」 聞き耳がわざとらしく爆音で咳き込めば、カシウスが視線を向けた。目を合わせ、グッと親指を立ててみせるとカシウスは不安げに頷いた。 「なぁ、なぁ、この確率のとこ、全然わかんないんだけど」 「……んー、じゃぁ、まず例題から一緒にやってみよっか」 「おう!」 さぁ来い、と気合を入れるブルータスを見て、カシウスは微笑んだ。 飴と鞭、飴と鞭……。ブルータスに冷たくするのは気が引けるとは思いながらも、やらなければブルータスは自分のことを気にしてくれない。カエサルなんかより自分のほうがずっと長くブルータスと一緒にいるし、彼のことを理解してる。自分はこんなにもブルータスのことを考えているのに彼の頭の中にはこれっぽっちも自分の存在などないに違いない。だっていつも一緒にいるのに突然離れるなんて、自分が悲しい思いをしても彼はかまわないのだ。 ブルータスに優しく例題を教える一方、カシウスはネガティブな思考の渦に沈んでいた。 解答にたどり着くと、ブルータスはパッと表情を明るくしカシウスに満面の笑みを向けた。 「なるほどー。わかった気がする!やっぱお前教え方上手いなぁ!」 「……」 「な、次、こっちの章末問題やる!」 「……俺はもう教えないからね」 「えっ!?なんで!?一緒にやろうよ!俺一人じゃ無理だもん」 「……ブルータスはいつもそうやって人に聞くからダメなんだよ。そんなんだから成績も伸びないじゃん。……いつでも俺がそばにいると思ったら…大間違いなんだからね」 「え……」 いつも優しいカシウスにビシッと言われ、ブルータスは眉を下げた。 「……(あぁ〜そんな顔しないで…ごめんほんとごめん/汗)」 「だよな……。俺お前に甘え過ぎだな。ちょっと自分で頑張ってみる」 「……」 10分後。 「……カシウス!できた!これ、合ってる?」 10分間、互いに終始無言だったが、その間一生懸命問題に取り組んでいたブルータスがカシウスにノートを見せた。 「……あぁ、うん、合ってるよ…」 「マージーで!!俺もやればできるじゃん!(嬉)」 「……(…あれ?/汗)」 「やっぱさ、カシウスの言ったとおりだよ。人に聞いたり教科書を写すだけの、コピー&ペースト族になってはいけないんだ。自ら未知の問題に挑戦し、抽象的な問いかけに対して仮説とフレームワークを通して如何に論理的に、実際的に答えを導き出すか。本当の意味での『考える力』、すなわち地頭力を鍛えることが何よりも大切だって言うことを……」 「………そ、そうだね(なんか言い出した…/滝汗)」 作戦その2…飴と鞭作戦は、ブルータスが一つ賢くなって終わった。…………。