「……おっちゃん……」

「…………」

「おっちゃん! 本当におっちゃんか!? なぁ、スサノオのおっちゃん!」

「おっちゃんとか言うんじゃねぇー!!(怒)」


オウスはスサノオに殴られた。


「……まぁ、おっちゃんかどうかは知らんが、彼が君達と同じヤマトの民だ。昨年君らと同じように突如としてここに現れて、それ以来この学校の生徒になった」


怒りではぁはぁと肩で息をするスサノオを宥めながらエドガーが言った。立ち直ったオウスはスサノオの顔をしげしげと眺めた。


「……へぇ〜。だがこんな若い男がスサノオのおっちゃんとは信じられないな」

「そうですね……スサノオノミコトはもっと貫禄があったし……」

「日頃の食生活と運動不足がたたってそろそろメタボ検診に引っかかりそうだったのに……」

(……メタボ検診?/汗)


環境にすぐに適応できることが取り柄のサルメは早速この世界の言葉を覚えていた。


「私は貴様におっちゃん呼ばわりされる覚えはない!」

「まぁ、確かにスサノオのおっちゃんがこんなに若い頃には私達もまだ生まれてなかったかもしれないな……(←聞いてない)。とにかく、ここの世界が私達のいた時代とは違う時代だということは信じるしかないようだな」


うーんと唸って、しぶしぶといった感じでオウスが言った。
オウスの納得の行かないような表情は、未来に飛ばされてしまったという信じがたい現実を受け入れなければならないせいでもあるが、同時に若かりし頃のスサノオノミコトが思った以上にイケメンだったせいもある。顔は必要以上に小さく、目ははっきりと大きい。口元は引き締まり知性を感じさせ、手足はやはり長くすらっとしている。このイケメンが晩年には飲んでは寝てのぐーたら生活の後に引き締まった筋肉を脂肪に変えてしまうのだ。
自分も相当にイケメンだと信じ込んでいるオウスは、自分の将来を案じて少々自信をなくした。


スサノオは教室に戻り、エドガーと、過去から来た三人組はぞろぞろと廊下を歩いていた。すれ違う生徒たちは一般的に見てこの世界にすごく不自然な三人組の姿を見てもあまり気に留めていないようだった。スサノオの例もあってか、似たような人種が少し増えたくらいでは気にならないようだ。それ以前に、トート先生にカルロッタ先生、ルキーニ先生などのどう控えめに言ってもまともとは言えない教師陣のおかげで基本的にこの学校の生徒はタフである。


「とりあえず、原因はわかっているが……何にせよあいつに会わなければ始まらない」


見上げた表札には2年2組と書かれていた。







教室に入ってきた三人組を見るなり、ジグモンドはげっと悲鳴を上げた。


「ジグモンド。ようやく学校に戻ってきたと思ったら、早速厄介事引き起こしてくれたな」

「はぁー。俺の所為かよ……」

「お前以外に誰がいる。さっさと彼らを帰してやるんだな。おかげでフレデリックが殺されかけた」


ピクッ。


(なぁ〜に保護者みたいなこと言ってんだコラァッ/怒)


フレデリックから朝の成り行きについて聞いていたロックウェルは、こめかみの辺りに青筋を立てた。


連れてこられた三人は挙動不審に教室内を見渡していた。
そんな不安げな三人を見てジグモンドは視線をあらぬ方向に向けてはぁー、とため息を吐いた。


「あのなぁ……悪いんだが、もとの世界に戻すことはできない。シャンドールがしくじって……タイムマシン壊れたっぽい」


沈黙が流れた。


「…………だってさ」


振り向いていったエドガーの言葉に、オウスは喰らいついた。


「お、おい! どういうことだ! 勝手に私達をこの世界に呼び出しておいて、今更戻せないだと!? ふざけるな! 私達は東国遠征の途中だったんだ! 決死の覚悟でヤマトを出発して……そうだ、過酷な旅を続けてきた! 荒ぶる神とも戦い、東国の豪族とも戦い……血のにじむような思いをしてきたこの旅を……今更、やめろというのか!? 結構じゃないか! よーし、わかったよ! やめてやるよ! この世界にとどまってやろうじゃないか!(キラーン)」

「オ、オウスー!? 何言ってんの!?(汗)」

「ばかばか、サルメ、あんな不毛な旅続けるだけ無駄! 私はここで優雅に暮らします(サダルと)」

「暮らしますじゃねーよ!(汗汗汗) しかもどさくさにまぎれて私の存在を無視しないでください!(滝汗)だめだめ、ちょっとジグモンドさん! 何とかならないんですか!?」


焦ったサルメがジグモンドに詰め寄った。必死すぎてちょっとコワイ。


「わ、わかったよ! わかったから離れろ!(汗)」


胸倉を掴まれて、ジグモンドは大いにむせた。


「とりあえず、今夜なんとか直してみるから……。今日のところはどっかで過ごしてくれ」

「え!? あなたの家に泊めてくれないんですか!?」

「いや、うちはもう定員オーバーだから。いろいろ抱えててな……なぁ、シャンドール」

「あぁ……っていうか俺の家なんだけど(汗)」



「しかし……どうしよう?」


三人は顔を見合わせた。


「よければ俺の家に泊まるか。ただし、そんなに広くないから一人だけ」


そう提案したのはエドガーだった。えっと振り返ったサダルの肩に手を置き、来るか? と耳元で囁いた。


「えっ…で、でも」


言いよどんだサダルの肩を軽く叩き、引き寄せた。


「よし、じゃぁサダルは俺の家に泊まらせる。あとの二人はどこか適当に泊まってくれ。あぁ、そういえばロックウェルは一人暮らしだったな」


勝手に話を進め始めたエドガーに、サルメ&オウス&ロックウェルは猛反発した。


「っだぁぁああーー!! ふざけんな! あんたサダルに何する気ですか!」

「そっ…そうだそうだ! サダルがあんたの家に泊まるなら、私も泊まらなければならないじゃないか! 全く、家はどこだ? え? 近い? 部屋は? 二つ? ちなみに布団はふかふかだろうな? じゃないとサダルが痛がるんだ。基本私が上だからさ…」

「おーーい!! あんたも何言ってんだ!!(滝汗)」

「オウスってば……(赤面)」


「うるさい奴らだな……」


過保護なサルメ&エドガーに負けず劣らず勝手に話を進めだしたオウスにエドガーは舌打ちした。


(この男好きが……貴様の思い通りにさせるか!)


こんな見境ないオオカミに部屋に連れ込まれては何をされるかわかったものではない。ましてサダルのような口数の少ない流されやすそうなタイプはなおさら危険である。
ロックウェルは瞳に炎を燃やした。


「わかった。俺も一人暮らしだし、誰か泊めてやるよ」

「……だそうだ。よかったな。二人」


エドガーはにやりと口の端を上げた。オウスとサルメは「ちくしょーっ」などとお決まりの台詞をはき、サダルは肩に置かれた手をどうしようかと視線をさまよわせ、周囲に目で助けを訴えた。
そんな様子を見定めるように目を細めて見て、ロックウェルが話を続けた。


「ただし! オウス、お前はサダルと一緒がいいんだろう? あいにく俺の部屋には二人も泊められるスペースがないけど……俺の隣に住んでいるやつも一人暮らしだ。そいつに頼んでみる。お前かサダルのどっちかがそいつの所に泊まればいい。そうすれば夜でも会えるし、文句はないな?」

「本当か! あぁ、構わない。さぁ、サダル! おいで!」

「オウス!」


サダルはオウスにガバッと抱きついた。


「くそっ……」


美味しそうな獲物を逃したエドガーは歯噛みし、他人の目も気にしないイチャラブモードの二人を見てサルメはもうどうにでもなれとこの状況を放棄した。


「で、サルメは…そうだな。フレデリックの家は?」

「うち? あぁ、たぶん大丈夫。兄さんもいるけど、いいかな?」

「あ、はい。いいんですか?」

「全然いいよ。折角だし、兄さんに頼んでいろんなとこ連れてってあげる」

「わざわざありがとう…」


思いがけず美人なフレデリックの家に泊まれることになり、しかも好意的に迎えられているらしいことに、当たりだ!とサルメは心の中でガッツポーズを作った。