「おい、どけよ! お前ら誰だよ!」 「フハハハハハッ! このダムは我々が占拠した!!」 「はぁ? ダムぅ? 何言ってんのこいつら。とにかくその給水機は学校のなんだから……」 ロベルトとフレデリックが外に出ると、何やら目的の給水機の周りに人だかりができている。混んでるなーと思いながら近づくと、どうも見慣れない人たちが給水機を取り囲んでおり、生徒が水にありつけない、という事態らしい。 「何々? どしたの?」 「あ、フレデリック。なんか知らないけどさぁー、変な人たちが給水機から離れないんだよ」 同じく給水機にありつこうとしていたキッドが、溜息交じりに答えた。 フレデリックが近付くと、変な人たちの中で特に背の高い男が給水機をがっちりガードした。 そのあまりの真剣さにそれ以上近づくのは申し訳ないような気がしてフレデリックは足をとめた。彼らは一様に黒い服に身を包み、一人の少年が水を飲むのを邪魔されないように守っているらしい。背の高い男は黒髪を腰まで長くのばした男で、どことなくエドガーに似た雰囲気を感じる。もう一人の男は細身の体格に銀髪で、RPGに出てくる暗い過去を背負った主人公のような風貌である。年は、フレデリックたちと同じくらいに見える。 「…………」 「フレデリック、俺とりあえず自販機で買うわ」 「あ、俺も」 経験上、変な人たちには関わらない主義のフレデリックはあっさりとこの状況を見なかったことにした。 「さあ、海! 俺が敵を引きとめている間にたんと飲め!」 「うう……氷、僕……ポカリ飲みたい……」 「え? 何だって? ぽかり?」 「この間……空が教えてくれたんだ……。水よりももっと吸収率のいい飲み物がある……って……」 「海、それは本当か! それは一体どこに……」 「そ……空……(ガクッ)」 「海――――――!!!(汗)」 体育館裏のテニスコートの近くに設置されている自販機でスポーツドリンクを購入した。ロベルトとフレデリックが階段に腰掛けて休憩していると、何やら女子生徒の声が聞こえる。言いあっているような甲高い声は階段横の扉の奥から聞こえてくる。 「ん……?」 「そこ、体育倉庫につながってる扉。誰か倉庫で休憩してんじゃね?」 ロベルトが言った。そういえば、ロックウェルが女子生徒に倉庫に連れて行かれる所を見た。大方、告白されてでもいるのだろうが……。きっとこの声の主は彼女らだろう、と思うとなんとなく憂鬱な気持ちになり、扉から視線をそらした時、突然その扉が勢いよく開いた。 「……フレデリック先輩!?」 扉から飛び出てきたのは、長い髪をラフに上でまとめた派手な女の子と、しっかり者らしい雰囲気の女の子二人組。名前を呼ばれたものの、フレデリックには彼女らに全く心当たりはなかった。 「え? 何……。あ、ロックウェル……」 続いてロックウェルが出てきた。心なしか、疲れた顔をしている。 少女はおずおずとフレデリックから後ずさった。 「フレデリック……先輩」 美雨にとって、こんな間近でフレデリックを見たのはあの日以来であった。体育の授業中だからか、長い金髪を一つに束ねている。首元にかかる後れ毛が悩ましく、美しい。半袖の白いシャツを肩まで捲り、白い肩には細い筋肉の形がうっすらと浮き出ている。彼が手にしたビタミンガードを見て、次回の差し入れはビタミンガードにしよう、と心に決めた。……のを、隣の親友は見てとったのか、美雨の頭をバシッと叩いた。 「ちょっと、あんた諦めるんじゃなかったの!?」 「あ、諦め……諦めるわよ! たぶん! いつか!」 「ちょっと!(汗) さっききっぱり聞いたでしょ! 大体そのポカリは何よ!」 「だって、差し入れにと思って……あ、ほら、タオルも……」 「タオルも、じゃなくてー! 諦める気ゼロじゃないのよ!(汗)」 「だって、だって……こんなにカッコいいなんて……諦められるわけ、ないじゃないー!(涙)」 (あ、この子やっぱりただのイケメン好きだ) ロックウェルは思った。 果たして話題の人物が自分のことなのかどうかも理解しておらず、呆気にとられたように三人を見つめるフレデリックに、飛燕が近付いた。 「ねえ、フレデリックさん。ちょっと聞いてもいいですか?」 「な、何?(汗)」 「ロックウェルさんと付き合ってるんですか?」 単刀直入過ぎる質問に、フレデリックは固まった。 「フレデリックさん!」 「えっと、あの……」 フレデリックは隣に座るロベルトに助けを求めたが、彼は我関せずと首を振るばかりであった。そして飛燕の後ろで、申し訳そうな顔を向けるロックウェルに気がついた。彼の表情を見て、フレデリックは悟った。 きっと彼は言ったのだ。自分達は付き合っている、と。フレデリックは感嘆の気持ちを感じずにはいられなかった。 「あー、うん……付き合ってるよ」 「!!」 フレデリックの一言で、美雨の顔が歪んだ。何かとんでもなくまずいことを言ったらしい、とフレデリックが気付いた時にはもう遅い。 「……っ! うわああぁぁぁん!!!!(泣)」 「あっ美雨――!!」 美雨は脇目も振らず駈け出して行った。飛燕の制止の声も届かず、走り抜けた先で―― ドンっ☆ 「きゃっ! いったぁ〜……」 「ご、ごめん。大丈夫かい?」 ぶつかった拍子に尻もちをついてしまった美雨に、青年が手を差し伸べた。逆光になっていて顔はよく見えないが……美雨のイケメンセンサーは大きく反応した。 「だ、大丈夫よ」 青年の綺麗な手を取り、美雨は立ち上がる。 「怪我はない?」 「大丈夫だったら!」 ぶっきらぼうな声色は照れ隠しであった。 ……まさに、クリーンヒットであった。切れ長の目、瞳の色は突き抜けるようなブルー。アシンメトリーな髪形と青と銀のメッシュは些かオシャレ過ぎるが、それも美雨にはとてもかっこよく見えた。体格はフレデリックと同じくらい。美雨より頭一つ分高い身長だが、微笑みは少年の面影を残している。 「良かった……ごめんな、突然ぶつかったりして。急いでいたものだから」 「いえ……別に。……貴方、この学校の生徒じゃないわよね? 一体どうして……」 「ああ、ちょっと用があって。俺は空」 「あ、私は……美雨」 「美雨、そっか。いい名前だね。じゃあ、美雨、また……会……」 青年は突然言葉を詰まらせると、そのまま美雨に倒れ込んだ。とっさに美雨は彼を支えた。 「ちょっと! どうしたのよっ……」 「ごめ……ここ数日、飲まず食わずで……」 青年の声は今にも消え入りそうに弱っていた。美雨は青年を地面に座らせ、手にしていたペットボトルを握った。 (フレデリック先輩にあげる予定だったけど……) しばし切ない眼差しでポカリの乳白色を見つめ、 (ってゆーかビタミンガード飲んでたし!) と思い直し、ペットボトルの蓋を開けた。 「ほら、飲むといいわ」 青年の薄く開いた唇から少しずつポカリを流し込む。微かに彼の喉が上下し、ちゃんと飲みこめているらしいことが分かる。青年は、口元を拭いながらゆっくりと体を起こした。 「これは……」 「別に……ただのポカリよ。あげるわ。脱水症状か何かかもしれない」 美雨は青年にペットボトルを押しつける。 「い、いいのか……?」 「それぐらい、いいわよ」 「ありがとう! 弟にも飲ませてやらなきゃ……!」 そう言うと青年は一目散に駈け出した。体育館の入口の方に向かっているらしい。 「ちょ、ちょっとーー!(汗)」 不審人物の登場に、美雨だけに任せるわけにもいかないので、ロックウェル達も慌てて後を追った。 「弟ってさぁ……」 「うん、すごーくあの人たちな気がするよ(汗)」 ロベルトとフレデリックは互いに給水機の周りにたむろしていた怪しげな輩のことを思い浮かべていた……。 「ほら、海! 兄さんの言ってたポカリだぞ!」 「に、兄さん……」 生徒一同が固唾をのんで見守る中、空と海による愛の兄弟劇場が繰り広げられていた。海は既に息も絶え絶えと言った様子であったが、空がポカリを飲ませてやるとどうやら一命を取り留めたらしい。 一気にペットボトルを空にし、大きく深呼吸をすると、感極まってか空に抱きついた。 「兄さん! ありがとう……生き返ったよ」 「はは……よかった。海が無事……で……(バタッ)」 弟の頭を撫でながら、空は美しい微笑とともに秋の青空へと昇天した……。 「わああーー!!兄さぁぁあん!!(滝汗)」 その日の夕暮れ、空が目を覚ましたのは保健室のベッドの上だった。気だるい体を無理矢理に起こすと、ベッドのわきには氷、海、雹、霙の四人が所狭しと身を乗り出して空を見守っていた……。 「……怖い(汗)」 「空、大丈夫か! 全く、ポカリを探してくるなんて言っていなくなって……いくら海のためとはいえ、無茶をするな」 「兄さん、大丈夫? ごめんね、僕のせいで、兄さんが倒れてしまうなんて……。でも兄さんのポカリのおかげで皆もう元気になったよ」 「空、大丈夫か……ごめんな、俺もついて行けばこんなことにはならなかったのに……」 「空……。面倒事は全部雹にやらせればいいのヨ……(ボソ)」 「あー、皆、心配ありがとう。でもそんな4人がかりで看てもらわなくても……」 「ちょっと、あんた達!(汗) 起きたばかりの病人に寄ってたかって群がるんじゃないの!」 美雨は肝っ玉母さん張りの勢いで暑苦しい四人組を追い払った。四人は反対側のベッドに腰かけた。(←大して動いてない) 空は枕の上に置かれた氷枕に気がついた。 「美雨……君が看ててくれたのか」 「べっ別に……! この学校の生徒じゃなきゃ保健室使えないし……、あんた達だけじゃ不安だったから」 美雨は役に立たなさそうな四人組を一瞥しながら言った。 「……美雨は、優しいな」 「な、何言ってんのよ! ほら、元気になったなら行くわよ!」 真っ赤になった美雨を微笑ましく見つつ、空は急に表情を曇らせた。 「……どうしたの?」 「いや……もうここには来られなくなるのかなって思って」 伏し目がちに呟いた空の言葉の先に、『もう君に会えなくなるんじゃないかと思って……』という言葉を美雨は勝手に頭の中で継ぎ足した。 「そっそれなら……この学校の生徒になっちゃえばいいじゃない!」 「生徒に? そんな、突然、無理だと思うよ。それに、俺たち五人分もお金用意できないし……」 「(五人とも学生やるつもり!?/汗)だ、大丈夫よ、私の知り合いに文雀っていうコンピュータマニアの男がいてね、学校のシステムを操作するくらいわけないわ。データ上ちょろまかしさえすれば、あとはどうとでもなるわよ」 「そんなこと、できるのかな……」 「大丈夫、任せて!」 「美雨……ありがとう。恩に着るよ。これで皆水に困らなくて済む。本当にありがとう」 「(そ、そこ!?/汗)い、いいのよ……」 「……ってゆーかそれって犯罪ヨネ(ボソ)」 霙の呟きは誰もが聞かなかったことにした。 後日――。 「美雨、おはよう」 「空! おはよう。制服、似合ってるじゃない」 「ああ、いつもの服よりも動きやすいし、温度調節もできるし、すっかり気に入ったよ」 「あら? 他の四人は?」 「遅れてくるよ。美雨の姿を見つけたから、俺だけ先に来たんだ」 「空……///」 「氷ー、海が美雨って子にRockOnしてるんですけど」 「兄さんに馴れ馴れしくして……許さない……(怒)」 「海……どこからその拳銃持ち出したんだ……」 「……制服ってのもなかなか悪くはないわネ」 どうやら今度の恋もすんなり上手くいくことはなさそうな美雨であった……。