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隣の隣の部屋。


「なぁ、フレデリックがさ、ミスターコンでるんだって! お前聞いてた?」

「あぁ、聞いたよ」

「お前でないの?」

「俺は去年でたから無理。大体出れても出たくねーな。去年より順位下がったらショックじゃん」

「へぇ、弱気〜」

「うっせ」


ベッドに寝転んで雑誌を読んでいたロックウェルは気の乗らない声で言った。脇にはベッドに背を預けてテレビを見ているロベルトがいる。


「フレデリックならミスターに選ばれそうじゃね? 他誰だっけな……1年がオウスで、あと3年はホゲ先輩だっけ?」

「さぁ、忘れた」

「あーあ、これでフレデリックも一躍有名だぜ。彼女も出来んのかな」


突然ロックウェルはガバッと起き上がった。何事かとロベルトが振り返れば思いもよらず真剣な瞳でロックウェルが見つめていた。


「……そう思う?」

「は?」

「いや、だから、彼女できるかな」

「え? いやわかんないけど……ま、できてもおかしくないだろ。普通にかっこいいし」

「そうかなぁ……」

「ってか誰が見てもイケメンだろ! まあ確かにちょっと変なとこはあるし、性格的には……女にモテるタイプじゃなさそうだけど」


中空を見つめフレデリックを分析するロベルトの言葉に、ロックウェルはうんうんと頷いた。
ロベルトは疑わしい視線を彼に向けた。どうも、いつものロックウェルらしくない。


「ロックウェル、お前さー……」

「あのさ……、俺お前に言おうと思ってたことがあるんだけど」


ロベルトの言葉をさえぎり、ロックウェルが言った。次の言葉はロベルトの予想をはるかに超えたものだった。


「俺、フレデリックのこと好きかもしれない」

「……はい?」

「いやだから〜……好きかもって。あいつのこと」

「……フレデリック?」

「うん」

「あの、金髪長髪の、俺らの友達のフレデリックのこと?」

「だからそうだって言ってんだろ」


ロックウェルはロベルトから視線を逸らしつつ気の乗らない感じで言った。ロベルトはといえば、振り返った姿勢のままぴたりとも動かない。

フレデリックが好き? 一体何を言い出すんだ、このイケメンは。


「それって、念のため聞くけど、友達として好きだってことじゃないよな」

「わざわざ報告してるんだから、違うだろうな」

「うっそ、マジかよ……」


乾いた笑いがロベルトの口から漏れる。いまいち整理し切れていない表情である。とりあえず視界が開ければ何か理解できるかもしれないと思って、髪を後ろにかきあげてみたが、生憎何も変わらなかった。仕方なく、壁際に視線を向けるロックウェルに真っ直ぐ向き直る。


「……マジで言ってんの」

「とりあえず、お前には言っておこうと思って」


本気か、と聞きそうになったが、ロックウェルの表情からして冗談ではないらしいことがわかった。
いや、というよりもわかっていた。ロックウェルのフレデリックに対する態度や行動は友達としてのそれとは違うのではないかと思い当たることが何度かあった。
わかっていながら、見ないふりをしていた。


「嘘だろ」

「お前何回言わせんの」

「嘘だ。好きじゃねぇよ。勘違いだよ。あいつ……今まで会ったことないタイプだから、お前、好きとか勘違いしてるんだよ、絶対」

「俺だって結構考えたんだよ。でもマジなんだよ」

「はっ……なんで。お前そーいう気あったっけ?」

「ってかなんでキレてんの」

「俺もわかんねーよ! 意味わかんないけどなんかムカつく!」

「はぁー?」


ロベルトは勢いよく立ち上がった。ロックウェルのあきれ返ったような瞳が見返す。
何か言ってやりたいけれど言葉がない。明らかに理不尽なことを言っているのは自分のほうだとロベルトはわかっていた。フレデリックを好きだというのなら応援してやればいい。友達の恋を応援するのは当然のことだ。
なのに、体と言葉は天の邪鬼みたいにその当然の考えから逃げようとする。


「……帰るわ」

「おい、待てよ」

「帰る! じゃぁな」


乱暴に靴をはき、大きな音を立ててロベルトは出て行った。


ロックウェルはふぅーと大きく溜息を吐いて、頭の後ろで手を組みベッドに寝転んだ。
あんなに感情的になったロベルトは初めて見たような気がする。いつも飄々とした態度で、他人のことなんかお構いなし、楽しく生きられればそれでいいと考えているような奴だったはずだ。


「……怒るとこか?」

「そりゃアレッスよ、ロベルトさん、妬いてるんスよ」

「妬いてる……? 何だよ、それ。ただの友達だろ?」

「はぁーっ本当、鈍感ッスね。ロベルトさんに、あんた以外に友達がいる? あんたがフレデリックさんと付き合っちゃったら、ロベルトさん一人になっちゃうんスよ」

「そんなの……友達であることには変わりないだろ。俺はフレデリックもロベルトも好きだ。どっちかなんてつもりは…………って何でお前普通に会話してんだ!!!!(殴)」


一体いつからいたのか、なぜかロックウェルの向かいでまったりお茶をすすっている聞き耳に、すかさずロックウェルの右フックが飛んだ……がしかし、標的は一瞬にして視界から消え、ロックウェルの右手は空を切った。


「な……何ィ!?」


間一髪のところで屈んでよけた聞き耳は『してやったり』と不敵に笑った。


「危ない危ない……あんたのパンチはもう見切ったッスよ……俺だってだてに毎回殴られてるわけじゃ……!?!?」

「うっせえぇ!!」

「ぎゃああああぁぁっ!!(汗)」


ロックウェルのエルボー・ドロップをもろに食らった聞き耳の背中はボキッと何やら不吉な音を立てた……。


「ちょっ、ボキッて言った! ボキッて言った!(汗) 背骨折れたら人間死ぬんスよわかってるんすかぁあ!!(泣)」

「ギャグキャラは死なないから大丈夫だ」

「くっ……最近シリアスもいけるキャラに転向してきたのに……(涙)」


チクショーなどと呟きながら背中をさする聞き耳の様子からして既に背骨はくっついたらしい。


「で、お前いつからいたんだ」

「『なぁ、フレデリックがさ、ミスターコンでるんだって! お前聞いてた?』ってとこから」

「ほぼ最初からじゃねぇか……(汗)」

「(ん? 最初? 最初ってなんだ?) いや、なんか楽しそうな話してたから邪魔しちゃ悪いと思って。明日文化祭じゃないっすか、それでうちのクラスお化け屋敷やるんスけど、そのチケットあげようと思ってきたんスよ!」

「はぁ? いらねー」

「ちょっと頼むッスよ〜。さばかなきゃいけないんスよ、客寄せしなきゃなんだって」

「んなこと言ったって、俺明日一日離れられないもん。調理係だから」

「えっそうんなスかぁ〜。せっかくフレデリックさんも一緒にと思ったのに」

「っていうかお前、フレデリック知ってたっけ?」

「そりゃ、知ってますよ。話したことはないけど、すげー美人な先輩がいるって、有名ッスよ」

「……ふーん」

「ロックウェルさんも所詮は人の子だったんだなぁと思いました」

「どーいう意味だコラ(怒)」

「いや、わかるッスよ、あんな綺麗な人と四六時中一緒にいたら、そりゃロックウェルさんだって男なんだし抑えるべきものも抑えられないというか……」


ロックウェルの冷めた瞳が部屋の空気をピシッと音を立てて凍らし、言いすぎたと聞き耳が後悔したときにはもう遅い。ロックウェルの怒りの琴線に触れたらしい。


「あーうっぜー! 早く帰れ! マジでムカついてきた……」

「ちょっ(汗)そんな怒んなくたって……マジなんスね」

「うっせーよ、てめぇに関係ねーだろ。あーイラつく! ロベルトといい、お前といい、何なんだよ! しょーがねーじゃん、別にフレデリックが美人だからって好きだって言ってんじゃないけどな、だったらお前あいつ以上に綺麗で、スタイル良くて、大人びた顔してるのに笑うと子供みたいになるギャップが可愛くて、でも意外と積極的なところがセクシャルで、でも気が弱いところがあってそこが放っておけない、総合的にみると綾波レイと惣流アスカを8:2の割合で統合したようなベストバランス保った人間見たことあんのかよ!」

「例えが意味わからんし気持ち悪い!!(滝汗)」

「お・ま・え・に、気持ち悪いなんて言われたくねーんだよ!! さっさと消えろ!」

「わかった、わかったッスよ! もう帰るって!」


聞き耳は慌てて退散の姿勢を取り、今にも噛みつきそうなロックウェルの鋭い眼光から逃げるように玄関に向かった。


「じゃあ、また明日ッス! 待ってるッスよー!」

「いかねーっつってんだろ! 期待してんなよ」


ロックウェルは清々するとばかりに短く息を吐くと、憮然とした表情でひらひらと手を振った。
靴先を床に叩いて玄関のドアに手をかけながら聞き耳が振り返る。その表情に、ロックウェルは思わずハッとさせられた。


「……余計な世話かもしれないッスけど、さっさと言った方がイイっすよ! 後悔したくないなら」


明日待ってるッス、と一言付け加えて、聞き耳はドアを閉めた。

……わかっている。聞き耳の言うことはわかる。カシウスとのことがあったから、ロックウェルに同じ思いをしてほしくないのだろう。でも……


「……そんな簡単に言えりゃ苦労しないっつの……」


一人になった部屋で、ロックウェルは長いため息とともにそうこぼしたのだった。








文化祭編、続きます♪