「よし、始めるか」


いつのまにか仕切り始めたエドガーにタムドクとホゲは疑問を抱きつつも、試合は開催されることとなった。

ちなみにエドガーがやたら人数を連れてきたため、バランスを考えて、ロベルト、ロックウェル、サルメの3人が銀四郎率いるチーム、エドガー、サダル、フレデリックの3人がタムドクとホゲの率いるチームにと分散することになった。……何か意図があるように思えてならないメンバー構成である。


「よし!(気を取り直して)ホゲ、がんばろうな!」

「あぁ!」


ホゲとタムドクはハイタッチをしてそれぞれの立ち位置についた。なんとも爽やかな二人である。


ロベルトのキックオフによって試合開始。さすが、サッカー部のエース、最初のキックオフでボールはタムドクチームのゴール目がけて飛んでいく。


「うわ、何だあの2年!(汗)」


タムドクとホゲは必死にボールを追いかけるもとても追いつかない。フレデリックも一応追いかけようとしたが明らかに無駄だとわかって途中であきらめた。こういう奴はよくいる。


「ああっ駄目だ! サダル! 頼む!」


ホゲはキーパーのサダルに向かって叫んだ。

サダルは腰を落として構えをとった。そして持ち前の反射神経を持って軽やかに飛びあがり(2mくらい)、飛んでくるボールに向かって「ハァァッ!」などと叫びながら槍を突き刺した。




……………………。




新しいボールが用意され、今度のキックオフはタムドクチームからということになった。
誰が蹴るか、話し合っているその時、何やら周囲が騒がしくなった。テニスの試合にひと段落ついた女子がサッカーの応援に来たのである。
運動後の爽やかな汗を流した女子たちの笑顔はなんとも眩しい。その中で、長い黒髪を高い位置でアップにし、リストバンドをはめた手首で額の生え際のあたりを拭う、一際肌の白い東洋美人は……。


「キ……キ・キ・キ・キ・キ・キハアァァァァ!!??」

「なっ……ホ、ホゲ!?どうした!?(汗汗汗)」


突然奇声を発して後ずさりまくったホゲに、タムドクは度肝を抜かれた。


「い、い・い・い・い・いや、な、なんでもない。さあ、試合を続けるぞ★」

「いや、お前今キハって叫んだよな(汗)キハがどうかし……」

「はあぁぁ!?!? 言ってねえし! んなこと一言も言ってねえし! で、キックオフは? 私でいいのか? さあ、いくぞ!」

「……??????(滝汗)」


ホゲのキャラの変わりぶりについていけないタムドクは唖然としたまま、張り切りだした彼のキックオフを見送った。


(よし、絶対キハにいいとこ見せてやる! そしてできればタムドクに失態を……! 神様!)


自分で何かせず、祈ってしまうあたりが彼の気弱なところである。


ホゲの蹴ったボールをエドガーが受け、そのままゴールに向かおうとするもやはりロベルトにふさがれてしまう。しばらく二人の攻防が続いたが、でしゃばってきた銀四郎が大胆にエドガーに体当たりをしてファールをかまし、再びタムドクチームのボールとなった。

体育の時間も残り少ない。女子たちの(というかキハの)見ている間にかっこいいシュートを決めなければ、とホゲは息巻いていた。女子たちはもう試合がすべて終わったのか、体育座りしてサッカー観戦を決め込んでいる。

今現在、ボールは銀四郎チームで回っている。先ほどルールを知ったばかりのサルメが器用にドリブルし、相手チームをかわす。このときサルメをマークしていたのはサリャンであった。タムドクチーム全員がこのときサリャンの存在に初めて気がついた。彼は常にキハとともにいるのでキハがいないときの存在感のなさと言ったらない。だが、かといって秘密兵器的に頼もしい運動能力があるわけでもなく、サリャンが何とかサルメから奪ったボールは直後にあっさりとロベルトに奪われた。


「へへっ♪ わりぃーな、先輩!」


余裕綽々の表情でロベルトはゴールへ向かう。というか、もとよりロベルトがいる銀四郎チームは圧倒的に有利だった。


「あぁ、もう!」


――このままでは自分に全くボールが回ってこないまま試合が終わってしまうじゃないか。それではキハにただの忍者の末裔と思われたままだ!

ホゲは顔をゆがめた。ちなみにやはりというか、朝の一件の弁解はしていないようである。

意を決して、ホゲはロベルトに向かっていく覚悟を決めた。タムドクも同時に同じことを考えたらしく、二人は目を合わせて頷いた。

ロベルトに向かって走っていくとき、コートの脇で座ってみている女子の中にキハの姿が一瞬見えた。優しそうな笑顔をたたえて、男どもを見守るその姿はさながら女神のようだった。
ホゲは俄然やる気が出て、何やら意味不明な叫び声をあげながらボールに向かっていった。
大して強い敵もいないと油断しきっていたロベルトは、タムドクとホゲに左右から挟み撃ちにされ、ボールを奪われた。奪ったのはタムドクだった。


(チャンス! これで私がシュートを決めれば……!)


「ホゲ!」

「タムドク!」


ゴールに先回りしたホゲに、タムドクがボールをパスした。ボールを受けたホゲはゴールを見据えた。キーパーは……なんとカエサルだった! 信じがたいことに、彼はゴール前でまだ編み物を続けている。このチャンス、逃す手はない!

ホゲの瞳がキラーンと光ったその時、上空でも何かがキラーンと光った。それはヒュルルルルと音を立てながらホゲの頭上に向かって落ちてきていた。


「危ないっ!!」


タムドクの叫び声にホゲはハッとして頭上を見上げた。迫ってきていたのは野球ボールだった。上空から勢い付けて飛んできたそれは人間の反射神経でよけられるものではなかった。タムドクがホゲを守ろうと彼に向かって体当たりしたのと、上空から落ちてきた物体がホゲに直撃したのはほぼ同時だった。
……つまり、タムドクの捨て身の行動の甲斐もむなしく、ボールは無事(?)ホゲに直撃したのである。


「わああぁぁっホゲ!ホゲ!大丈夫か!!??」


ホゲは気を失っていた……。


「ああ……、チョクファンにイルスはどこだ? こんな時に限ってなんであの二人がいないんだ……」


一人でホゲを抱きかかえようとするタムドクは手伝ってくれる者はいないかと辺りを見渡した。


「タムドク、手伝うわ」

「……キハ」


白くて細い手が差し伸べられた。キハはいつのまにやら用意した水で濡らしたタオルをホゲの頭に載せた。そしてサリャンを呼んで、ホゲを抱えさせた。


「……ありがとう、キハ、それにサリャン」

「いいのよ、タムドク。それより……」

「?」


キハはふっと目を泳がせて、照れくさそうにほほ笑んだ。


「とっても素敵だったわ。ホゲを守ろうとした貴方……。下手すれば貴方にボールが当たっていたかもしれないのに……。簡単にできることではないわ」

「いや、何も考えてなかったんだ。ただ、ホゲが危ないってことだけしか考えられなくて……」

「……ふふ、貴方らしいわね。私、好きよ。あなたのそういうとこ」

「キハ……」


なにやらラブラブモードに突入しようとしている二人は、すっかり当のホゲのことを忘れ、二人の世界に入っていった。ホゲはと言えばサリャンが一人で保険室まで運んだのである。






「兄貴ぃ、見たかい? 俺のホームラン♪」

「ジョルジュ〜お前あれホームランじゃないって、完璧デッドボール! さっき誰か保健室に運ばれていったぞ」

「え? 本当かい? 運の悪い奴だなぁ」

「ハハッ、ひっでぇー!」

「俺のせいじゃないも〜ん。アハハ」


幸せそうな笑い声がグラウンドでこだました……。







放課後の保健室。


すでに夕闇が窓の外に広がる時刻にようやくホゲは目を覚ました。


「ん……私は……」

「気がつかれましたか」


額には濡れたタオルが置かれていた。声をかけたのはキハのお伴のサリャンだった。


「お前は……サリャン? なぜお前が……」

「飛んできた野球ボールに当たって気を失ったホゲ様を、私が運んできたのです」

「へぇ……そう。どうも……」


サリャンは水の入ったバケツでタオルを絞っていた。どうやらホゲのためにタオルを二枚用意してこまめに取り換えてくれていたようだ。献身的に介護をしてくれていたようだが、感謝の気持ちより気味悪さの方が勝った。


「ご気分は?」

「え? あぁ、まあ、悪くない」


見つめこんでくるサリャンの熱っぽい瞳にホゲはたじろいだ。なにせ、彼と話したのはこの時が初めてだったのである。初めての会話でホゲ様となぜか様付けされたのも疑問だった。
二人の間に沈黙が下りる。どちらかといえば人見知りなホゲは、サリャンに対してどう接すればいいのかわからない。しばらくホゲを見つめていたサリャンはおもむろにホゲの手を握った。


「!?!?!?(汗)」

「ホゲ様……私もあなたと同じ気持ちです」

「え? は?(汗)」


突然脈絡のないことを言われ混乱するホゲに対して、サリャンは恥じらう乙女のごとく頬を染めた。


「いつも私のことを見つめていたでしょう? わかっていました。恥ずかしかったんですよね。でもようやく、二人きりになれましたね……」

「あ、あの……意味が……(汗汗汗)」


どうやらキハを見つめるホゲの視線が自分に向けられていたものと勘違いしていたらしい。どうやったらそんな勘違いを起こすのか疑問である。

妙な誤解に対して困惑するホゲだったが、いつのまにかサリャンの唇が迫ってきているのに気がついてずっこけそうになった。


「なんでだーーー!!!(怖汗)」

「さあ、恥ずかしがらないで……」

「ぎゃあぁぁぁぁっ!!(泣)」


何せファーストキスも経験のないホゲは絶叫した……。

その時。


「貴様ーーー! 私のホゲ様に何をする!!!」

「チ、チョクファン!」


どこぞに隠れていたのか、チョクファン(とイルス)が参上し、サリャンに脳天突きをくらわせた。……というかチョクファンはベッドの下から出てきたような気がする。


「ぐっ……貴様ら、私とホゲ様の愛のひと時を邪魔するな!」

「サ……サリャン、貴様存在感薄いくせにここぞとばかりに何してんだぁこの変態!!!!」


チョクファンは怒りたぎってホゲを指差した。いきなり指差されたホゲは頭に疑問符を浮かべつつ、自分の体を見た。

……いつのまに脱がされたのか、ホゲの上半身は何も身につけていなかった……。

ホゲはとっさに身の危険を感じ、布団をたくしあげて露わになった素肌を隠した。


「なっ……なっ……なぜ……(汗)」


恐怖で引きつった表情を浮かべるホゲに、サリャンは“Oh…(溜息)”とでも言いだしそうなそぶりで首を振った。


「……ホゲ様、あのような野蛮なものの言うことは無視しましょう」


再びホゲに迫りだしたサリャンはイルスの秘孔突きをくらって、遠いお空の☆になった……。


「た、助かった……二人とも。ありがとう」


ようやく安心したホゲは二人に礼を言う。イルスは落ち着いてサリャンの後処理をし、チョクファンは未だ怒りで興奮している様子である。


「全く、あいつ許せないです! あ、あ、あ、あろうことかホゲ様の、ホゲ様の、ら、ら、裸体を……(赤面)」

「裸体とか言うな……(汗)ところで、お前ら、授業でないで何やってたんだ?」

「え? い、いえ……それは」


なぜかどもるチョクファンに呆れの溜息をついて、イルスが代わりに答えた。


「体操着に着替えるホゲ様の生着替えを見て、チョクファンが大量に鼻血を出して出血多量で死にかけたんです。それで保健室に」

「バッ……イルス! 言っちゃだめだって言ったじゃないかーー!」

「お前もサリャンと同類だな(軽蔑)」

「あぁーーだから言うなってーーー!!!!」

「…………(滝汗)」


ホゲは再び貞操の危険を感じ、固く掛け布団を握りしめた。

なぜこうも男にばかり好かれるのだろう……と悩むホゲだったが、図らずして自分がタムドクとキハの恋のキューピッドになってしまったことはまだ知らない……。