校門にたどり着いたとき、見慣れない車が一台止まっているのが見えた。生徒の群れの中でやたらと存在感を放つそれは黒のBMW。生徒の送り迎えだろうか。それとも金持ちのフランツ先生? 何だろう、と思いつつ、四人がその車に近づくと同時にドアが開いた。


「……サルメ!?」

「あ、オウスにサダル。おはよう」


黒いスーツに臙脂色のネクタイを締めたサルメはどこぞの町にたむろしているホストのようになっていた……。
サダルは道を踏み外してしまったような兄弟の姿に動揺を隠せなかった。


「な、な、なんで……(汗汗汗)」

「いやーフレデリックの兄さんが服貸してくれて」

「ふーん……そう……(なんでオウスもサルメもこの世界の溶け込もうとしているんだろう……/汗)」


引きつった表情のサダルの横で、ロックウェルはやはり、と苦笑いした。この車もフィリップのものなら納得である。さすがは経営者といったところか。
サルメに続いて後部座席からフレデリックがため息をつきつつ出てきて、ロックウェルに曖昧に笑いかけた。運転席のフィリップが窓から顔を出し、サングラスを額にずらして手を振った。


「ロックウェル! おはよー!」

「うわっ……フィリップさん……(汗) おはようございます」

「久しぶりじゃん、元気?」

「あ、まぁ……」

「なぁまたうちの店来いよ。フレデリックがさ〜うちでお前の話ばっかなんだ」

「えっマジすか!?」

「ロックウェル、兄さんの言うこと超適当だから信じないでね」


ロックウェルはガクーンと肩を落とした。


フィリップがけたたましい音を立てて車を発進させ、途中でぼんやり歩いていたルドルフを撥ねて角に消えるのを見送り、ロックウェルたちは教室に向かった。



教室に着くなりジグモンドが駆け寄ってきて、すっかり現代になじんだ格好をしている二人を見て訝しげに顔を引きつらせた。だがロックウェルに向き直ると、突然目の前で両手を合わせた。


「悪い! 無理!」

「は?(汗)」

「マジごめん!」

「待て待て待て……」

「いや、実はな……」


ジグモンドの肩を叩くようにしてシャンドールが顔を出し、状況を説明した。ちなみに本日も胡散臭い白スーツは健在である。


「タイムマシンがさ、全然機能しなくなっちゃってな」

「え? どういうことだ?」

「ジグモンドが作ったタイムマシンは、見た目は普通の勉強机なんだが引き出しを開けるとそこが異空間になっていて色んな時代と繋がっているんだ」

「あぁ、要するにドラ○も……」

「とにかく! 今朝になったらその引き出しが全く普通の引き出しになっていて……。よくあることらしいんだよな、その……ド…もんを読む限り(ボソボソ)」

「……つまりー」

「つまり、三人はヤマトに帰れない」


ロックウェルはサァーっと青ざめた。もちろん、こんな見知らぬ土地に放り出されて故郷に帰れないなんて彼らが不憫すぎるというのもあるが、そうなればオウスはまさか自分の家に住み着くんじゃないかという不安がよぎったのである。事実、彼は夕飯を食べた後、クローゼットを漁り一人でファッションショーをしながら「どう? これぴったりじゃないか? こっちのパーカーもほしいなぁ……。なぁ今度買い物付き合ってくれよ。服はカッコいいし、ご飯は美味しいし、怪物は出ないし(!?)、ここは最高だな。一生帰れなくてもいいかも〜なんてな♪」などと不吉な台詞をのたまっていたのである。
そっと後ろを振り向けば、オウス、サダル、サルメの三人は顔を見合わせていた。サダルの瞳が泣きそうにゆがんでいた。


「ど、どうしよう……私達、帰れないのかな」

「サダル……大丈夫だよ」


オウスはサダルを抱き寄せた。


「ここだって悪くはない。争いもないし、小うるさい父上もいない」

「……え?(汗)」

「ロックウェルは優しいし、私達三人が離れ離れになるわけじゃないし……」

「あ、あの……(汗汗汗)」

「私も昨日はどっかのビルの最上階のバーに連れてってもらって、なかなか楽しかったです。お酒は美味しいし、夜景なんて最高でしたよ」

「サ、サルメ? 何言ってんの?(汗)」

「ま、これも運命。受け入れるしかない!」

「いや、運命ってか全然帰ろうって努力がないよね君達……(汗)」

「いやーよかったよかった! 悪いな! ま、タイムマシンもたまたまできたようなもんだし、しょうがないっしょ!」


丸く収まりそうになった場を見てジグモンドがあっけらかんと言い放った。無責任な発言だが一応年的には先輩に当たるためロックウェルは喉まででかかった文句をぐっとこらえた。


「で、でも、そしたらこの人たちこれからどうするんです? 家もないし……」

「え? だってロックウェルの家に泊まってたんだろ?」

「……だから?(汗)」

「そのまま暮らせばいーじゃ……」

「それは絶対に無理!!!(滝汗)」

「えー……でも俺ロックウェルの家がいい」

「黙れ!(汗)」


ふとサダルが困ったように眉根を寄せた。


「でも……私はこれ以上聞き耳に迷惑かけられない」

「サダル……お前なんていい奴なんだ。さすが私の選んだ男……」

「(無視)サルメも。私達は私達でやっていこう。いいな?」

「……そうだな。本当にここで暮らすとなると長期的に考えて自分達の家がどうしても必要になってくる」


なにやら二人で話をまとめだしたサダルとサルメに、オウスが焦りだした。


「ちょ、ちょっとまて! いや、それわかる! 確かに、これ以上他人の世話になるわけにはいかないな」

「オウス……!」


オウスの言葉にサダルは頬を緩め、サルメは密かに舌打ちをした。


その時、HRの開始を告げるチャイムが鳴り、朝っぱらから辛気臭い雰囲気を漂わせた担任が教室に入ってきた。トート先生はたるそうに資料をテーブルに置き、教室をぐるりと見渡した。


「さて、今日のホームルームは来月の文化祭についてだ……。ん?」


見慣れない三人組が後ろに固まっているのを見て、トート先生は眉を吊り上げた。カツカツとヒールを鳴らして大仰に三人に近づく。


「見慣れない顔だな。何年生だ」

「え、何年生って? 君こそ何だ?」

「き、君だと!?(汗)」


恐れ多くもオウスは黄泉の帝王(自称)を馴れ馴れしく『君』呼ばわりした。だが彼も事実天皇の息子なのだから尊大な態度は仕方がないといえば仕方がな……い?
トート先生の不穏な空気を察したフレデリックが間に割って入った。


「あ、あの、彼らはこの学校の生徒じゃないんです。でも年は……いくつだっけ?」

「17」

「17」

「私は16だ」

「マ……マジかよ!!(オウスって16歳なの!?/汗)」


やたらと偉そうな態度の所為でどうみても20はいっているだろうと踏んでいたフレデリックは驚いた。
トート先生は白い顎に手を当ててしばし三人を眺め回した。怖い。


「ほほう。なるほど……。それでは転入手続きがまだ済んでいないということか」

「いや、えと……」


トート先生はサダルとサルメを足元から眺めてふんふんと一人で頷いた。フレデリックは嫌な予感がした。


「では17歳の二人は黒天……いや、私のクラスに入れてやろう。16歳のお前、お前は下の学年だな」

「私だけ違うところなのか?」

「そうだ。クラスは年齢別なのだから仕方ないだろう」

「えー!!有り得ねー……」

「オウス……たまに遊びに行くから」

「そうそう、二人で遊びに行くからさ(ニヤァリ)」

「サルメ……てめぇっ(汗)」




「あの……トート先生、いいんですか」

「校長には私から言っておこう。フレデリックの頼みとあればこそ」

「(……頼んではないけど/汗) そうですか……良かった。ありがとうございま……!?」


どさくさにまぎれてトート先生はフレデリックを抱き寄せた。バックに少女マンガ風に薔薇を散らせて細い顎をクイと持ち上げたトート先生は、脳天に強烈なパンチを食らって意識を飛ばした。


「この変態教師……っ(汗)」

「ロ、ロックウェル……ありがとう(汗)」












「うっ……うっ……」

「…………」

「うぅっ……うっ…うぇっ……」

「…………」

「ううぅぅ〜……」

「……うるさいよ、レオー……」

「……うわぁあああん!!」

「……ッるさい……(汗)」

 
 
1年3組のこの時間は数学。先週の中間テストが返され、皆安心した顔をしたり、苦い顔をしたりと反応は様々だったが、余程散々な結果だったのか高校生とは思えない迫力で泣き出したレオーの隣の席だったカシウスは悪態をついた。
 

「カシウスにいじめられたぁ〜うぇぇえん」

「……うざ…」

 
ますます止まらなくなったレオーを横目で睨み付け、耳栓を取り出したカシウスの席にブルータスがやってきた。彼の表情を見る限り、テストの結果は上々のようだ。

 
「カシウス! どうだった?」

「……まぁまぁ」

 
カシウスの答案を覗き込んだブルータスは短くうめいた。
 

「まぁまぁって……100点じゃん! あ〜あ。今回は俺も自信あったのに」
 

ため息をついて見せたブルータスの答案は96点。
折角教えてもらったのに、と眉を下げるブルータスだったが、本気でへこんでいるわけではないようだった。すごいじゃん、とカシウスが誉めるとすぐに表情を緩めたが、カシウスが持っているものに気が付き首をかしげた。
 

「耳栓? なんで?」

「……いや、レオーがさ……」
 

机に突っ伏していたレオーは耳ざとく二人の会話を聞き付けたらしく、ガバッと起き上がり情けない泣き顔を晒した。
 

「ブルータスぅ〜カシウスのやつが酷いんだっ! 自分が満点だったからって、僕の答案見て嘲笑ってバカにするんだぁ〜うわあぁぁん」

「ちょっ……レオー、勝手なこというな! ……ブルータス、俺本当になにも……」

「言ったもん言ったもん言ったもん『へぇ〜……君の価値が良く表されている採点結果だね(ニヤアリ)』って言ったもん〜〜〜!!!(大嘘)」


一桁の点数の答案用紙を振り回すレオーにすがりつかれ、困り果てたブルータスがカシウスのほうを見ると、カシウスはふるふると震えていた。


「……俺、そんなこと言ってないっ……ブルータス、俺、違うのに……うぅっ……」

「な……泣くな泣くな!!(汗) お前がそんなこと言うわけないだろ! そんなのわかってるよ」

「うぅっ……ブルータス、ありがと……」

「でもカシウス、俺のことウザいって言ったーーーー!!! うわぁああん!!」

「……!!(ビク――ン/滝汗)」

「黙れよレオー! 自分が点悪かったからってカシウスにあたるなよ!」

「本当なのにぃぃいい」

「うるさい!」

「……(ドキドキ/汗)」


「レオーの言うことなんか気にしない方がいいわよ。こいつ朝もタイムマシンがどーとか頭おかしいこと言ってたんだから」


辟易した様子でイサベルが口を挟んだ。レオーはぶんぶんと首を振った。

「それも本当だもん〜〜〜! 俺の部屋の机タイムマシンなんだもん!!」

「あーはいはい。すごいわねー」

「本当なのにぃぃ〜〜!!(まぁジグモンドにばれるまでだけど……)」


彼のささやかな復讐が、ヤマトからはるばるやって来た三人の運命を変えてしまったことを彼は知らない。


「おい、てめーら!! 転入生がいるんでなぁ、紹介するぜ。へっへっへ」


1年3組の担任はルキーニ先生であった。なぜか酒臭い匂いを振りまきながらおぼつかない足取りで教卓に腰をかけ、ドアのところに立っていた人物に手招きした。
この時期に転入生など余程の異例である。レオーも泣き止み、クラス中の視線がその人物に集中した。教室に入ってきたなかなかのイケメンの転入生を見て、聞き耳は持っていたシャーペンをカツーンと落とした。


「はじめまして、スメラミコトの王子、オウスノミコトといいます。オウスって呼んでくださーい。……ってあれ? お前、昨日サダルを犯そうとしてた……」

「してないしてない!! 変な誤解招くからやめてくださいッス!!!(汗)」

「……聞き耳……最低……(ボソ)」

「カ、カシウス……違うんスよぉ〜!!(涙)」

「まぁ昨日のことは許してやるよ! 私も今日からこのクラスだから、よろしくな! 仲良くしよーぜ」

「げぇっ……マジッスか……(汗)」

 
カシウスに怪訝な目で見られて涙目の聞き耳の肩を励ますようにたたき、オウスは空いている席についた。しかも予想通りといったところか、彼はカシウスがタイプだったらしく身を乗り出してカシウスに話しかけはじめた。


「ねぇ君どこ住み? 私ここにきてまだ日が浅くてさ……よかったら今日一緒に帰らない?」

「……え、えっと……でも……俺……」

「ちょっ……あんた何言ってるんだよ! カシウスは俺と帰るんだから……」


愛しの彼の操に危険を感じたブルータスが口を挟むと、オウスは瞬時に二人の関係性を察知したようだった。さすがである。


「あぁ、そういうことか。それならもちろん、君も一緒に。正直右も左もわからないんだ」

「うっ……ま、まぁそれなら……」

「あ、ねぇ君、教科書見せてくれる? あれ、君どこかで見たことある気がする。ほら、芸能人の。いや、ほんと可愛いもん。ねぇ、名前は?」


ブルータスがいるとわかった途端オウスは隣の席のポルキアに目を付け出したらしい……。

突然のチャラ男の出現に戸惑うブルータスと聞き耳は互いに目を合わせ、今後の波乱を予想して深刻にため息を吐いたのだった。